スイス最古の町クール。氷河急行でクール駅へ到着するころ、隣の席の老夫婦と目があう。それまで5時間以上も隣に座っていたが言葉を交わすことはなかった。
「イギリスの出身ですか?」
咄嗟に声をかけてみる。
「日本の方ですか?」
返す笑顔。
ツェルマットからスイスの大自然を一緒に旅してきた私たちにとって、互いが話す言葉の響きから出身地を言い当てることは然程難しいことではなかった。
イングランド東部イーストアングリアから北この夫婦は、70~80歳台の出で立ち。スマートフォンに目をやりながら落ち着いた口調で話す様子は、穏やかなスイスの春の情景と重なって見えた。
サンモリッツまでの残り2時間を同じ空間で同じ感情で、国籍も世代も異なる人々と共有できる出会いが旅の醍醐味でもある。