雨の日だけは、山の天気予報は当たるものだ。突然の雨に打たれ、雷の音に追われるように逃げ回る人々。グリンデルワルトの名峰も、夕立の始まるころには自慢の顔を隠してしまう。
晴れの日のハイカーは遠くの山に夢中となり、喫茶店が目の前にあることすらも気付かない。
雨の静けさに浮かび上がる喫茶店。扉をたたくと、そこには誰もおらず、振り返ると笑顔の老婆が一人。
「普通のコーヒーしかないよ」
ぶっきらぼうに言い放つハニカミ顔に頷き、席に着く。出されたコーヒーにミルクを入れると、手を置く前にゴミをすぐに片付ける。張りつめた空気が私たちを包み込む。
「これ地ビール。味見するかい。」
緊張が和らぐ瞬間。乾いたのどに染みわたる爽快感。
バーカウンターに座った椅子を回すと、青空っが広がっていた。